心と体と

2019年12月31日
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観ておきたい一作
80点

不思議な出来事が男女をつなぐ、少し変わったラブストーリー。

心と体と



食肉工場で財務部長を務めるエンドレは、新人で入ってきた品質管理の女性、マーリアに不思議と惹かれていた。だが、近づこうとするエンドレに対して、彼女の態度はつれなく冷たい。それどころか彼女は工場内でも孤立していた。そんなある日、工場で窃盗事件が起こり、社員全員がカウンセリングを受けることになる。そこで、エンドレは、マーリアと夢の中で鹿となって出会っていたことを知り……。

まず動物の描写にいきなり惹かれた。
まるで人間が演じているのかと思うぐらい、動物たちの姿は感情を露わにし饒舌なのだ。
これから来る自分の運命を悟っているような牛。無垢な子供がじゃれ合うように戯れる鹿。
その姿は素直そのもので、ある意味、人間よりも人間らしい。
と思えば、次には屠殺のシーンが生々しく描かれる。
最初、この意味がわからなかったが、映画を観ているうちにだんだんと意味が摑めてきた。

マーリアの生きる世界は無垢な子供の世界で、エンドレの生きる世界は酸いも甘いも嚙み分けた大人の世界なのだ。
だから、二人は惹かれあいつつも、交わる方法を見つけられないでいる。
大人の世界は子供を拒絶し、逆に子供は大人の世界がわからない。
その先に待っているのは、孤独に突き放された子供の絶望だ。

でも、この映画はその先に大人の歩み寄りを用意している。
それは、大人と子供の二人が、どちらの世界でもなくどちらの世界でもある、鹿の世界を共有していたからだろう。
子供も大人も鹿の世界を通してお互いに近づき、現実に触れ合う。その時を境に、鹿の夢を見なくなるのは象徴的だ。

最初、冷たく見えたマーリアが、じつは人との接し方や感情の表現の仕方がわからない幼い少女だと気づいてからは、彼女がどんどん可愛く見えてくる。
人形を使って会話の練習をするシーンや、お婆ちゃんに男を落とす方法を聞こうとするシーン、わからないながらも愛の音楽を探して回るシーンなど、どれもが子供じみている。だからこそ、純粋で、とても愛おしい。

よくよく考えれば映画自体も「子供の世界」と「大人の世界」の両方を描いているものだと気づく。
毎晩夢の中で鹿になって出会っている、というおとぎ話のような話は子供の世界。
現実の窃盗事件の犯人探しや、男女の恋愛を描くのは大人の世界だ。
これで冒頭の動物たちのシーンと、屠殺のシーンが続くのも理解できる。
それぞれが「子供の世界」と「大人の世界」の役割を負っているのだ。

とかなんとか小難しい話をしたくなる面白い映画でした。
子供の初恋奮闘記としても観られるし、大人の諦めた恋愛を取り戻す話としても観られます。
単純にラブストーリーとして面白いです。

※ほか、ちょっと。
・屠殺のシーンは本当にリアルそのものなので、苦手な人はダメだと思う。
・ラストシーンでマーリアが見せる笑顔が本当に可愛い。
・エンドレの片腕が動かないのも、たぶん何かの比喩なんだろう。
・主題歌の使い方も上手い。エンドロールで流すあたりも心憎い。
・ずっとこの映画のタイトルこそ「聖なる鹿殺し」だろうと思ってた。
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ひこくろ
Posted by ひこくろ
フリーでライターをしています。
有名人に会えるとワクワクしてしまうミーハーです。
1000本分の映画をぶった斬ってしまったので、これからはおススメの映画が1000本分溜まるまでやろうと思っています。

※おススメな映画があったらお気軽に教えてください。

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