37セカンズ

2020年02月16日
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おススメの一本
85点

ベルリン映画祭などで絶賛されたHIKARI監督の長編デビュー作。

37セカンズ



生まれた時に37秒間呼吸をしていなかったユマは、脳性麻痺を患い、身体が不自由になっていた。日常生活を送るのもやっとなユマを過保護なまでに扱う母親。親友の漫画家のゴーストライターとして生計を立てていたユマは、そんな母親を鬱陶しく感じているが、反抗はできない。そんなある日、ユマは自らを漫画家として売り込もうと出版社に持ち込みをするのだが……。

「人間の尊厳とは何か」というナイフを喉元に突き付けられているかのような映画だった。
身体が不自由で他者の助けを借りないと生きていかれないからと言って、その人には髪を伸ばしたり、おしゃれをしたり、自分の好きなことをする権利はないのだろうか。
主人公のユマは、すべての尊厳をはぎ取られ、唯一の武器である漫画家としての才能すらも親友に搾取される。
そうでありながら、心のどこかで「しかたがない」と諦めている。その姿がたまらなく切ない。

現実は彼女に対して圧倒的なほど残酷だ。
勇気を出してエロ漫画の出版社にマンガを持ち込んでも「経験不足ね」と一蹴される。
セックスを経験しようと買った男には、「無理」と言われて拒絶される。
身体障害者であるというただ一点で、彼女は世界からはじかれる。そのことを彼女自身が一番よく知っている。

それでも人間の尊厳を持って生きようと願う彼女の姿はとても美しい。
これはもう人間的な美しさなのだと思う。
そして残酷な世界にもわずかばかりの希望はある。

彼女のそのままを受け止めて一緒に楽しんでくれるデリヘル嬢。
彼女が必死に生きていることを理解して、きちんと才能を認めてくれるエロ漫画の編集長。
自分に会いに来てくれた彼女に対して「ごめんなさい」と素直に謝る双子の姉。

誰もの力は本当に小さい。世の中からしたら消えてしまいそうなほどだ。
それでも彼ら弱者の視線は暖かく、純粋で、彼女と彼女を見守るしかない観客に勇気を与えてくれる。
そして、なによりも彼女には愛だけを注いでくれる母親の存在がある。

障害者として彼女を扱う母親の視線は愛に満ちている分、彼女にとっては皮肉でもある。
すべての自由を奪い、尊厳をはぎ取り、狭い世界に押し込める力でもある。
彼女自身、それに反発もする。それでもその底には彼女に対する計り知れない愛情がある。
最後の「ただいま」「おかえり」のやり取りに、二人の関係がすべて詰まっている。

これは身体障害者の悲劇的な現実を描いた映画ではない。
人が人間の尊厳を持って生きようとする姿を描いた人間賛歌だ。

役者ではユマを演じた佳山明の存在感が素晴らしい。演技初挑戦とはとても思えない。
それに対する母親役の神野三鈴の演技もすごい。二人のシーンは緊張感に満ちていて、時に鬼気迫るぐらいだ。
デリヘル嬢の渡辺真起子、エロ漫画の編集長の板谷由夏も、社会の底辺で生きる強さと優しさを見事に演じてみせた。
そのほかの役者さんもみんないい。

若い世代のとんでもない力を見せつけられたような気がした。
素晴らしい作品だと思う。

※ほか、ちょっと。
・トシ君だけがよくわからなかった。彼の行動の動機って何なんだろう。
・お風呂のシーンが衝撃的だし、象徴的。冒頭と後半、どっちのシーンも凄まじい。
・マンガやアニメの入れ方も上手いなぁと思った。
・双子の姉役の芋生悠が初々しくて清楚でとてもかわいい。
・可愛いのにゲスい。とても嫌な人間に見えたので、萩原みのりも上手かったんだと思う。
・ものすごく心を抉られるし、残酷でもあるんだけど、でも暗くないってところもすごいと思った。
・後半の展開は予想外で「え?」って思ったけど、決して映画の質を落としてはいない。
・これがデビュー作とかすげえな、本当。
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ひこくろ
Posted by ひこくろ
フリーでライターをしています。
有名人に会えるとワクワクしてしまうミーハーです。
1000本分の映画をぶった斬ってしまったので、これからはおススメの映画が1000本分溜まるまでやろうと思っています。

※おススメな映画があったらお気軽に教えてください。

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