君が世界のはじまり

2020年08月04日
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おススメの一本
80点

ふくだももこが自身の小説を映画化。

君が世界のはじまり



男をとっかえひっかえしている琴子と、成績優秀なえんは、いつも二人で授業をサボっては廃教室でダラダラと過ごしている。その日も、二人は廃教室に向かったが、そこには一人泣いている業平の姿が。琴子はえんの目の前で恋に落ちた。一方、父親との関係に息苦しさを感じていた純は、取り壊しが予定されているショッピングモールで、伊尾を見つける。東京からやってきた彼は、学校でも浮いた存在。だが、話しているうちに二人は関係を持つようになり……。

出てくる全員が全員、恋愛やセックスを求めて止まない。
でも、それは純粋な気持ちからの行動ではない。
彼らはみんな言葉にできない、息苦しさや生きづらさを感じていて、恋やセックスがそれを救ってくれると心のどこかで期待しているのだ。
だから、彼らの恋愛は死に物狂いの本気だ。
たとえ、相手が自分のことを好きでなくても一緒にいられればいい、と真剣に思ってる。
そして、彼らは気づいてしまう。恋もセックスも、自分がここにいることを決して許してはくれないってことを。

映画はとても残酷で、彼らの一人の恋愛も叶うことがない。
歪な形で繋がりはするものの、それは最悪の時の助けには、何もならない。

どんどんと追い詰められていき、助けとなるべき恋愛も上手くいかず、彼らの息苦しさだけがただただ募っていく。
業平も、伊尾も、純も、おそらく琴子も。一人で抱えきれなくなるのに、頼れる人が誰もいない。
それを求めてやまない、恋愛の相手すら、追い詰められた時にはただの他人でしかない。
この行き場のない苦しさや、心が静かに病んでいく感じが、飄々としながらも、刺さるように伝わってきて痛い。

映画では、後半に一つの事件が起こる。
追いつめられていった彼らが着地せざるを得ないだろう悲劇だ。
そこに至らなかった、残った彼らは、ほっと胸をなでおろし、でも思う。
「これは自分の事件だ」と。

それがはっきりと言葉にして明かされる深夜のショッピングモールのシーンは、だからこそ胸を打つ。
この世界から切り離された場所で、彼らは本音をぶちまける。
その言葉のやり取りは、まるでナイフで相手を傷つけあっているかのように、痛いし、エグい。
しかも、そこでは誰も傍観者になれない。「他人事」にできない。
一人だけ、どこか遠くから眺めていたような、えんも。そしてたぶん観ている観客も。

全部明かして、彼らはブルーハーツの歌を演奏する。叫ぶように歌う。
それがとてもやさしい救いのように感じられた。
まだ、生きていられるよっていう彼らのメッセージのように思えた。

役者さんもみんなその役を生きていた。
琴子役の中田青渚も、純役の片山友希も、伊尾役の金子大地も、岡田役の甲斐翔真も素晴らしい。
業平役の小室ぺいのあの圧倒的な普通感、静かに病んでいく感じは、言葉にできないほどいい。
作り物めいた松本穂香も、この役にはぴったり。彼女が叫ぶシーンはガンガン心に刺さった。

素晴らしい青春群像劇だと思う。

※ほか、ちょっと。
・深夜のシーンに琴子がいないのは、少しだけ残酷。でも、しかたがない。
・ブルーハーツと女子高生と向井康介が揃ったら無敵。
・えんの家庭の食卓シーンのあたたかさが、余計にほかの息苦しさを際立たせる。上手い。
・大阪弁でなかったらこんなにヒリヒリと来なかっただろうなぁと思う。
・構成は少し「明日、きみがいない」に似てる。ちょっと驚く展開もある。
・エンドロールで流れる松本穂香の語るように歌うアカペラ「人にやさしく」もとてもよかった。
・最後に告白しないのがね、またね、いいんですよ。
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ひこくろ
Posted by ひこくろ
1000本分の映画をぶった斬ってしまったので、これからはおススメの映画が1000本分溜まるまでやろうと思っています。

※おススメな映画があったらお気軽に教えてください。

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