人数の町

2020年09月08日
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おススメの一本
74点

木下グループが製作した中村倫也主演のオリジナル映画。

人数の町



借金を背負ったその男は、彼のことを「デュード」と呼ぶ謎の男に連れられて、ある町にやって来た。用意された個室の部屋にはベッドと一冊の本、バイブルが。それは町の中で守るべき決まりごとが書かれた本だった。バイブル通りにしていれば、フリーセックス、衣食住完備の生活が送れる。彼は先人たちのアドバイスを受けながら、徐々に町に順応していった。一方、現実社会では行方不明になった妹を探す姉が、その町へ行くことを決意していた……。

なんだか妙な違和感がやけに印象に残る不思議な映画だった。

公開規模や作品のスケールなんかは大作に近いのに、中村倫也と石橋静河以外は特に有名な人も出ていない。
描かれる内容も、「世にも奇妙な物語」といった感じで、かなりミニシアター系。
映画をあまり知らない人が撮っているのか、映像もかなり素人臭さを感じる。
だけど、アートに走っているわけでもなく、一応エンタメを目指しているようにも見える。
総じて、全体的にバランスが取れていない。

が、それがダメかと言うとまた微妙で、その違和感はなぜか癖にもなる。
初期の頃の園子温の映画を観ているような感覚と言ったら近いかもしれない。

そして、この映画が独特なのは、そこだけでなく、最大の違和感を内容や世界観に感じられるところにある。

舞台は非人間的な管理社会で暮らす人々の世界「町」。
人間は名前を奪われ、家族と離れさせられ、目的のない暮らしを送ってる。
にも関わらず、そこで暮らす人々はまったく不幸に見えない。
というより、暴力も怒りも苛立ちも焦りもなく、しがらみを捨てて自由に生きる彼らの姿は、むしろ幸せにすら見える。

この違和感の気持ち悪さ。

映画の序盤で町の人がみな社会不適合者であることは明かされる。
彼らは現実社会に居場所がない人間だ。でも、この町では生きていける。
嫌々生きていくのではない。自分から進んでこの町で生きている。
その証拠に、彼らを縛るものもじつはない。
町を離れようとすると頭の中で轟音が鳴り響く、というのが唯一の縛りだが、そもそも彼らは町を離れようとはしない。
そして、主人公の男も彼らと同様に自然と町に順応していく。

中盤になって、妹を探す姉が町に乗り込んでくるまでは、これが当たり前の世界として描かれる。
そして、何より怖いのは、その当たり前の世界がとても魅力的に見えるところにある。
ああ、こんな世界で生きるのは楽しいかも、と思わせられてしまう。
そこに違和感の原因があるんだと思う。

これがディストピアみたいな世界だったり、宗教のように誰かを信じていたりするなら、たぶん違和感は生まれない。
「うん、それは幸せかもしれないけど、気持ち悪いよね」と冷静な視線で思えるからだ。
でも、頭では異常なんじゃないか、と思いつつも、気持ちの面で惹かれてしまう時には、もうそうは思えない。
この町の現実は他人事でなくなる。
徐々に町に馴染んでいく中村倫也が、自分の分身のようにさえ思えてくる。

まるでそこにストップをかけるかのように現れ、冷静な視線で現実を語る姉は、その意味でまるで救世主のような存在だ。
だからこそ、中村倫也も彼女に惹かれ、愛を告白し、一緒に逃げようと決意する。
でも、救世主は救われない。中村倫也も救われない。
常識は何も役に立たず、町だけが彼らが生きていくことを許してくれる場所だという現実が待っている。

また、違和感。

もしかしたら、これは現代社会を見事なまでに表現して見せた作品なのかもしれない。
あるいは、いきすぎた皮肉が、逆に現代社会を浮かび上がらせてしまった作品か。
どっちにしても、現代日本でしか生まれない、違和感の塊のような作品だと思う。

※ほか、ちょっと。
・石橋静河は誰の子を妊娠していたのだろう。
・あの世界をうらやましく感じる自分は、病んでいるのかもしれないな、とも思った。
・チューターと呼ばれる女性が、うらやんでいるかのような発言をするのもリアルに感じた。
・彼らが感動し、石橋静河が「何も感じない」と語った風景が気になる。
・立花恵理は、もうちょっとエロく演じてもよかった気がする。
・特に好きでもなんでもないんだけど、気になってしかたがない。そんなタイプの映画だった。
・家畜のブタだって幸せなのかもしれない。
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ひこくろ
Posted by ひこくろ
フリーでライターをしています。
有名人に会えるとワクワクしてしまうミーハーです。
1000本分の映画をぶった斬ってしまったので、これからはおススメの映画が1000本分溜まるまでやろうと思っています。

※おススメな映画があったらお気軽に教えてください。

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