楽園

2019年10月23日
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おススメの一本
79点

「64」などを手掛けた瀬々敬久が吉田修一の原作を映画化。

楽園



一人の少女が行方をくらましてから12年後。当時、消えた少女と一緒に下校していた紡はいまだに事件の傷を抱えていた。そんなある日、またも幼女誘拐事件が起こる。外国人とのハーフで片言の日本語しかしゃべれない豪士が犯人として疑われ、彼は追い詰められて焼身自殺をしてしまう。一方、12年前からその限界集落に居を構えていた善次郎は、ちょっとしたことから村人と揉め、村八分にされていた。やがて村人は善次郎をも犯人として疑いはじめ……。

宣伝ではサスペンスと謳っているが、これはサスペンスではない。
誰がなぜ事件を起こしたのかを探っていくミステリーでもない。
事件が起こったことで傷ついた人たちが、事件の傷を抱えながら、生きていこうとする話だ。
だが、傷は簡単には治らない。限界集落という閉じた世界が余計にその傷をえぐっていく。

豪士は「それでも生きていこう」とする道を、偏見と差別によりなかば強引に断たれてしまう。
善次郎の生きていこうとする未来も村人からは拒絶され、彼は大切な物を壊され、自らも壊れてしまう。
唯一、生きていけるだろう紡も、過去に背負った傷から逃れられない。

事件が起こると世間はすぐに犯人捜し、動機探しをはじめる。そしてそれが終われば事件は解決したと取られる。
でも、実際には事件には被害者や関係者がいて、彼らの傷は癒されることがない。
この映画観ていると、その残酷なまでの現実を突きつけられているような感覚に陥る。

三人の叫びは誰にも届かない。「生きていこう」とする意志は無残に打ち砕かれる。
「それでも生きていく」などと気軽に言うことなんてできない。それぐらい重いし、辛いし、残酷だ。
観終わって救われた気分になれる人は、たぶんほとんどいないだろう。
現実の重さを噛みしめるのが精一杯。彼らを応援する言葉すら発せられない。

瀬々監督は代表作の「ヘヴンズストーリー」で重く逃げようのない現実をリアルに描いて見せたが、この映画もそれに勝るとも劣らない映画になっている。閉鎖社会の残酷さという点では、むしろこちらのほうがきついかもしれない。
覚悟なしには観られない映画だと思う。

ほか、ちょっと。
・大作ではエンタメを、小作では重いものを、と撮りわけていた瀬々監督がついて大作でも自分のやりたいものを描きはじめたという感じがした。
・綾野剛、佐藤浩市、杉咲花の三人の主役は素晴らしかった。特に杉咲花は見事だと思った。
・佐藤浩市の土を喰らうシーンは壮絶だった。
・観てる時も観終わった後でも涙はでなかったのに、思い出すと途端に目が潤んでくる。そんな作品。
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ひこくろ
Posted by ひこくろ
フリーでライターをしています。
有名人に会えるとワクワクしてしまうミーハーです。
1000本分の映画をぶった斬ってしまったので、これからはおススメの映画が1000本分溜まるまでやろうと思っています。

※おススメな映画があったらお気軽に教えてください。

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